第31章 病院
爆豪は何も言わない。
腕を組んだまま俯き、黙って床を見つめている。
環だってユカリを大切に思っているはずだ。
それでも。
こんな言葉を書いた。
その器の大きさに、爆豪はほんの少しだけ悔しさを覚える。
そして同時に。
もし。
もし自分がその立場になれるなら。
一生だって大事にする。
そんな決意にも似た想いが、静かに胸へ落ちていった。
そんな空気の中――
「いやでも!」
パンッ!
光己が勢いよく手を叩いた。
病室中がびくっとする。
「これ読んで思ったのよ!」
全員の視線が一斉に光己へ向く。
「ユカリちゃん、モテすぎじゃない!?」
「え?」
光己は満面の笑みで叫んだ。
「学園祭で告白待機が三人!」
「た、待機って言わないでください!」
「他校の男子まで狙ってる!」
「狙ってません……!」
「後輩が囲む!」
「それは相談です!」
「店員がおまけ!」
「それはもう偶然です!」
光己は腹を抱えて笑う。
「あははは!本当にすごいわ、ユカリちゃん!」
必死に否定するユカリの姿があまりにも可笑しくて、病室の空気は一気に和んだ。
そして光己は、にやりと口角を上げる。
今度はゆっくりと爆豪へ顔を向けた。
「でも――」
その一言だけで、爆豪は嫌な予感がした。
「ライバルが多いと燃えるでしょ?あんた」
病室の全員が爆豪を見る。
一拍置いて。
「……チッ、うるせぇ」
盛大な舌打ちが響いた。
「否定しないのね」
光己は優しい顔で笑う。
「聞こえねぇ」
ぶっきらぼうに返す爆豪。
しかし。
耳だけは、驚くほど真っ赤だった。
それがあまりにも分かりやすくて。
ユカリは堪えようと唇を噛むが。
「……っ、ふふっ」
また、小さな笑いが漏れた。