第31章 病院
「『優しくて強くて可愛いから人気なのは当然です!みんな好きになります!!俺も大好き!!』」
読み終えた光己はどこか満足そう。
病室が一瞬静まり返る。
ユカリは額に手を当て、小さくため息をついた。
絶対そうだ。
あの勢い。
あのテンション。
あの「!!」の多さ。
間違いなくミリオだ。
匿名にする意味がまるでない。
隣では爆豪も「……チッ」と小さく舌打ちしながら、誰のコメントか察したらしく眉をひそめていた。
「続いて二人目!」
光己のテンションはまだまだ止まらない。
ページをめくる手も軽い。
「『ユカリはね、すっごくかわいいの!』」
「ねじれだ」
ユカリは即答して笑う。
迷いが一切ない。
爆豪も鼻でふっと笑う。
「匿名の意味ねぇじゃねぇか」
ぼそっと漏らした一言に、病室のみんなが吹き出した。
光己も笑いながら続きを読む。
「『この前ね、一緒にクレープ食べてたら、お店のお兄さんがおまけしてくれたの!』」
「うん、あったあった」
ユカリは思い出して笑う。
「『学園祭では三人も男の子が告白しようとしてたんだけど、みーんなタイミング逃してた!』」
「『あとねあとね!他校との合同訓練でも話しかけようとしてる男の子がいっぱいいたの!』」
光己はねじれの口調まで真似し始める。
テレビか何かで見たのだろう。
身振り手振りまでそっくりで、病室の空気はますます和やかになっていく。
「『でもユカリ、全然気づいてないの!かわいいよねぇ!』」
「あはは……」
ユカリは困ったように笑うしかなかった。
本当に覚えがない。
他校との合同訓練。
そんな視線を向けられていたなんて、一度も気づいたことがなかった。
「『本人は普通に話してるだけなのに、男子が勝手に照れてるの!見てると面白い!』」
そこまで読み終えた瞬間、病室には大きな笑い声が広がった。
しかし、その笑いの輪の中で一人だけ。
爆豪だけは笑っていなかった。
腕を組んだまま雑誌をじっと睨み、眉間には深いしわを寄せている。
(……そんなにモテてんのかよ)
改めて文字にされると、妙に腹が立つ。
知らない男子の姿が頭に浮かび、胸の奥がざわつく。
本人だけは何も気づかず、いつものように笑っている。