第31章 病院
その反応を見逃さなかった光己が、口元をにやりと吊り上げた。
「そりゃあもう電話で散々聞かされたわよ!」
「おい」
爆豪の声が低くなる。
危険信号。
しかし光己は止まらない。
「ユカリちゃんを助けに行く〜」
「黙れ」
「資料集めっから手ぇ貸せ〜」
「口閉じろババァ」
「ああしろ〜」
「聞けや」
「こうしろ〜」
「…………」
「見つけるまで家には帰らねぇ〜って!」
「ぶっ飛ばすぞコラ!」
病室が一瞬静まり返り——
ユカリは肩を震わせた。
「……っ、ふふっ」
笑いを堪えきれない。
なるほど。
意外にも爆豪はユカリのことを話していたらしい。
普段なら絶対に想像できない姿だ。
ちらりと爆豪を見ると、耳までほんのり赤く染まっている。
照れてる。
爆豪くんが。
ユカリの笑みはさらに深くなった。
そんな二人を見て、光己は満足そうに頷く。
「ほんっと頑張ったわね」
今度はそっと、ユカリの頭を撫でた。
優しく。
温かく。
まるで本当の母親が娘を労わるような手つきだった。
「助かってよかった」
その一言には飾りも冗談もなかった。
ニュースで事件を知り、息子が必死に助けに向かったことも知り、きっと心から安心したのだろう。
ユカリはその温もりに目を細める。
「……はい」
小さく、けれどしっかり頷いた。
その返事を聞いて光己は満足そうに微笑む。
そしてふと隣の息子へ視線を向けた。
「勝己」
「なんだ」
「ちゃんと助けに行ったのね」
爆豪は一瞬だけ黙る。
照れ隠しのように頭をかき、盛大に顔をしかめた。
「……るせぇ」
ぶっきらぼうな返事。
けれど否定はしなかった。
その一言だけで十分だった。
光己も勝も、どこか誇らしそうに息子を見つめる。
ユカリもそんな爆豪を見つめ、ふっと柔らかく笑った。
(やっぱり、優しい人なんだ……)
窓の外では夜の帳がゆっくりと降りていく。
静かだったはずの病室は、いつの間にか笑い声で満たされていた。
そこにあるのは、まるで家族団らんのような、温かくて心地よい時間。