第31章 病院
「それじゃあまた来るからね」
「無理しちゃ駄目よ?」
「退院の日も迎えに来るからな」
ユカリの両親はそう言って病室を後にした。
気付けば夕日はすっかり沈んで、窓の外には群青色の空が広がっている。
病室に二人きりの空気が流れる。
爆豪は壁際から持ってきた椅子にどかっと腰を下ろした。
腕を組み、足を組み。
その鋭い赤い瞳は自然とベッドの上のユカリへ向いていた。
傷はまだ残っている。
それでも今日はよく笑っていた。
その姿を見られただけで、胸の奥が少し軽くなる。
「……お前の親」
「うん?」
ユカリが首を傾げる。
「いい人だな」
その言葉にユカリは思わず笑った。
「でしょ?」
どこか誇らしくなる。
そんな反応を見た爆豪は鼻を鳴らした。
「親バカだったけどな」
「それは否定できない」
ユカリがくすくすと笑う。
窓の外を風が揺らし、カーテンがふわりと膨らんだ。
「あ、そういえば反省文どうなったの?」
思い出したようにユカリが聞く。
爆豪の顔が露骨に嫌そうになる。
「どうもこうもねぇ」
「終わったの?」
「終わった」
一秒の迷いもない即答。
ユカリは思わず目をぱちぱちさせた。
「もう?」
「五十枚程度だろ」
当然だと言わんばかりの口調。
まるで「プリント一枚終わった」くらいの感覚で言い放つ。
「普段から報告書とか書いてんだから余裕だ」
「さ、さすが爆豪くん……」
ヒーロー科らしい理由に、思わず納得してしまう。
ユカリは爆豪を見ながら思う。
戦闘では誰よりも強く、訓練では誰よりも努力家で、料理まで上手。
その上、普通なら悲鳴を上げそうな反省文五十枚まで、たった一日で終わらせてしまう。
規格外だ。
思わず笑いが込み上げてきた。
「ふふっ……」
「何笑ってんだ」
「爆豪くんって本当にすごいなって」
「は?」
「出来ないことなんてあるのかなって思っちゃって」
爆豪は一瞬だけ照れくさそうに目を逸らしたが、すぐに鼻を鳴らす。
「当たり前だろ。誰が一番だと思ってんだ」
その言葉には、揺るぎない自信があった。
ユカリはそんな爆豪を見て、また小さく笑った。