第31章 病院
そんな空気が少しだけ可笑しくて。
「爆豪くん」
ユカリが呼ぶ。
爆豪が視線を向ける。
赤い瞳と目が合う。
「ありがとう」
その一言だった。
けれど爆豪は一瞬言葉を失った。
あの日の夜空が脳裏によみがえる。
崩壊する施設。
落下するユカリ。
必死に伸ばされた手。
自分が掴んだ手。
絶対に離さないと決めた瞬間。
腕の中に感じた体温。
全部。
鮮明によみがえった。
だから。
ほんの少しだけ視線を逸らしながら言う。
「……言うのは退院してからにしろ」
ぶっきらぼうな声。
照れ隠しが見え見えだった。
ユカリは吹き出す。
「なにそれ」
「うるせぇ」
即座に返ってくる。
そのやり取りに両親も笑った。
夕日が病室を優しく照らしている。
さっきまで重かった空気はもうどこにもなかった。
穏やかな時間だけが流れていた。
少なくとも今だけは。
誘拐も。
ヴィラン連合も。
戦いも。
全部遠く感じるくらいに。