第31章 病院
ガチャリとドアノブが回った。
扉がゆっくり開く。
そして。
そこに立っていた人物を見て、ユカリは目を瞬かせた。
「爆豪くん?」
爆豪だった。
制服姿のまま。
いつも通り不機嫌そうな顔。
眉間には深い皺。
片手にはコンビニの袋がぶら下がっている。
どう見てもお見舞いだ。
けれど、その姿はどこか落ち着かないようにも見えた。
病室の空気が一瞬止まる。
ユカリも驚いていた。
だが。
それ以上に驚いていたのは両親だった。
爆豪勝己。
それは。
娘から何度も名前を聞いていた相手。
そして。
命懸けで娘を助けに行ってくれた本人。
ユカリの父親が静かに立ち上がる。
「君が爆豪くんか」
低く落ち着いた声だった。
爆豪は一瞬だけ視線を逸らした。
そして次の瞬間。
深く頭を下げた。
病室が静まり返る。
まるで時間が止まったようだった。
ユカリは目を見開く。
母親も父親も言葉を失う。
爆豪勝己が。
誰よりも頭を下げることを嫌うあの爆豪が。
今、床に向かって深く頭を下げている。
「……すみませんでした」
低い声だった。
言い訳も。
誤魔化しも。
強がりもない。
ただ真っ直ぐな謝罪。
その声には重さがあった。
何日も抱え続けてきた後悔が滲んでいた。
「守れなかった」
ユカリの両親は黙って聞いている。
ユカリの胸が小さく痛んだ。
爆豪は顔を上げないまま続ける。
「俺がもっと早く気付いてれば」
「もっと早く動けてれば」
拳が小さく震えていた。
「ユカリ先輩は攫われなかったかもしれない」
爆豪の声は少しだけ掠れていた。
ユカリは初めて知る。
爆豪がそんなふうに考えていたことを。
自分をずっと責めていたことを。
「だから」
爆豪は拳を強く握り締める。
「本当にすみませんでした」
再び深く頭を下げる。
沈黙が落ちる。
数秒。
けれど誰にも長く感じられた。
ユカリは胸が苦しくなった。
違う。
謝るべきなのは爆豪くんじゃない。
そう言いたかった。
でも言葉が出なかった。