第31章 病院
やがて笑い疲れたように静かになる。
夕日が窓から差し込み、白いシーツを橙色に染めている。
その穏やかな時間の中で、ねじれはふと窓の外へ視線を向けた。
そして静かに口を開く。
「ねぇ、ユカリ」
「ん?」
「怖かった?」
ユカリは少しだけ黙った。
否定しようと思った。
心配かけたくなかった。
でも。
ねじれには無理だった。
ユカリは小さく視線を落とす。
「……うん」
声が少し掠れる。
「……怖かった」
ねじれは何も言わない。
ただ黙って聞いている。
「最初は平気だと思ってた」
窓の外を見る。
沈みかけた夕日が眩しかった。
「でも夜になるとね」
「うん」
「みんなのこと考えちゃって……」
「うん」
声が少し震えた。
それでも何とか言葉を絞り出す。
「環とか」
「ねじれとか」
「ミリオとか」
「爆豪くんとか」
「轟くんとか」
「出久くんとか」
最後にユカリは泣きそうな声で呟いた。
「……会いたかった……」
胸の奥に溜め込んでいた本音。
本当はずっと寂しかった。
会いたかった。
ねじれは何も言わなかった。
ただそっと手を伸ばして。
ユカリの頭を優しく撫でた。
ゆっくりと。
優しく。
昔からそうだった。
辛い時。
悲しい時。
ねじれはこうやって撫でてくれる。
「頑張ったね」
ユカリは少しだけ目を見開く。
その言葉。
どこかで聞いた。
あの夏祭り。
迷子の湊に自分が言った言葉と同じだった。
「頑張ったね」
ねじれはもう一度言う。
「ちゃんと帰ってきてくれてありがとう」
その瞬間。
ずっと張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。
大丈夫なんだと。
平気なんだと。
自分に言い聞かせていた部分が。
ようやく息をつけた気がした。
ユカリは涙目で笑う。
「ただいま」
ねじれがとても嬉しそうに笑う。
心から嬉しそうに。
安心したように。
ユカリと同じ、涙目で。
「おかえり」
夕日が差し込む病室の中で。
その一言は、どんな言葉よりも温かくユカリの胸に届いたのだった。