第31章 病院
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病院の個室は静かだった。
窓の外では夕方の光が少しずつ柔らかくなっている。
ユカリはベッドに腰掛けたまま、自分の右手を見つめていた。
何度も。
何度も。
指を開いては閉じる。
ゆっくり握り込んで、また開く。
どうしても思い出してしまう。
あの日。
ヴィラン連合に連れ去られた瞬間。
黒霧のゲートが目の前に広がった時の絶望。
周囲の景色が歪み、足元が消えていく感覚。
爆豪と轟が手を伸ばしてくれたこと。
出久が必死に叫んでいたこと。
でも届かなかった。
ユカリはまたゆっくり手を握る。
そして思い出す。
助けに来てくれた時のことを。
崩壊する研究施設。
耳をつんざく爆発音。
砕けるコンクリート。
冷たい夜風。
真っ暗な空。
落下していく身体。
あの時。
諦めたくなくて。
必死に手を伸ばした。
そして。
掴んでくれた。
絶対に離さないと。
強く。
力強く。
ユカリは小さく息を吐く。
胸の奥がじんわり熱くなる。
考えなきゃいけないことが沢山ある。
爆豪のこと。
轟のこと。
自分の気持ち。
全部だ。
ちゃんと向き合わなきゃいけない。
静かな病室にノックの音が響く。
ユカリは顔を上げた。
「はーい」
返事をすると、勢いよく扉が開く。
「ユカリー!」
聞き慣れた明るい声。
そこに立っていたのはねじれだった。
両手いっぱいに大きな紙袋を抱えている。
「ねじれ!」
ユカリの顔がぱっと明るくなる。
さっきまで考え込んでいた空気が一瞬で吹き飛んだ。
「お見舞い持ってきたよー!」
「ありがとう」
「それとね!」
「うん?」
ねじれは真剣な顔で言った。
「ユカリがいなくて寮が静かすぎた!」
「それお見舞いじゃなくて苦情じゃん!」
思わず笑う。
久しぶりに声を出して笑った気がした。