第31章 病院
ユカリが静かに口を開く。
「先生」
相澤は顔を上げない。
「顔上げてください」
「………」
「相澤先生」
少しだけ強い声。
仕方なく相澤が視線を向ける。
するとユカリは困ったように笑っていた。
「私、生きてますよ?」
相澤の眉が僅かに動く。
「ちゃんとここにいます」
「………」
「助けに来てくれたじゃないですか」
ユカリはゆっくり言う。
「みんなも」
「先生も」
「私のこと諦めなかった」
その言葉に相澤は何も返せなかった。
ユカリは続ける。
「だから謝らないでください」
「……だが」
「私、先生を信頼してます」
真っ直ぐな声だった。
迷いがない。
曇りもない。
「今までも」
「これからも」
「ずっと変わりません」
相澤はその顔を見る。
不思議なくらい強い目だった。
泣き言も。
恨み言も。
一つもない。
その姿があまりにも眩しくて。
相澤は小さく息を吐いた。
「……強くなったな」
ぽつりと漏れる。
ユカリは少し笑った。
「先生たちのおかげです」
その返答に。
相澤は珍しく言葉に詰まった。
ユカリはそんな相澤を見ながら思う。
きっと何を言っても、この人は気にする。
先生のせいじゃないです、そう言っても。
私は大丈夫です、そう言っても。
相澤という人間は、自分を責めることをやめない。
教師だから。
責任感が強いから。
そして何より、生徒を大切に思っているから。
だからユカリは少し考えてから言った。
「……じゃあ先生、一つお願い聞いてもらえますか?」
相澤の眉が僅かに上がる。
珍しい。
ユカリが何かを頼むこと自体が珍しかった。
彼女はいつも与える側だ。
誰かを助けて。
誰かを気遣って。
自分のことは後回し。
そんな生徒だった。
「……何だ」
ユカリがいつものように笑う。
「今日はたくさん寝てください」
相澤が固まる。
予想していなかったのだろう。