第29章 救出
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建物は完全に崩壊していた。
かつて研究施設だったものは、今や瓦礫の山でしかない。
煙が立ち昇り、あちこちで火花が散る。
戦いは終わった。
少なくとも、今は。
黒い靄が静かに広がる。
黒霧のゲート。
撤退のための出口だった。
トガは最後まで名残惜しそうに振り返る。
「ほんとに帰るのー?」
「帰るんだよ」
荼毘が面倒そうに答える。
トガは頬を膨らませた。
その時だった。
「あ」
トガが声を上げる。
少し離れた瓦礫の向こう。
ヒーローたちの姿が見えた。
中心にいるのはユカリ。
無事だった。
抱きしめているミリオ。
頭を撫でる環。
安心して泣く出久。
無事を確認し続ける轟。
そして誰より近くから離れない爆豪。
誰もがユカリを囲むように立っていた。
自然と。
当たり前のように。
ユカリが中心だった。
死柄木は黙ってその光景を見る。
――そうだ。
最初からそうだった。
あいつは人を引き寄せる。
誰かの中心になる。
守りたいと思わせる。
信じたいと思わせる。
だから。
眩しかった。
だから。
最後まで悩んだ。
だけど。
結局そこが一番似合う。
ヒーローたちの輪の中。
仲間に囲まれて笑う場所が。
その時。
ユカリがふと顔を上げた。
まるで気配を感じたみたいに。
視線が合う。
かなり距離はある。
それでも。
確かにこちらを見た。
「ユカリちゃーん!」
トガがぶんぶんと手を振る。
満面の笑顔で。
まるで友達に別れを告げるみたいに。
荼毘は隣で腕を組んだまま鼻を鳴らす。
何も言わない。
ただじっと見ている。
トゥワイスは大きく手を上げた。
「元気でな!」
「いや元気じゃ困るな!」
一人で騒いでいる。
コンプレスは帽子を取る。
そして優雅に一礼した。
まるで舞台の幕が下りる時のように。
誰もがそれぞれのやり方で別れを告げていた。