第29章 救出
しばらくして、爆豪はようやく腕の力を緩めた。
ユカリもゆっくり身体を離す。
互いに無事を確かめるように顔を見合わせてから立ち上がった。
ユカリは服についた砂を払う。
爆豪も舌打ちしながら、肩や腕についた埃を乱暴にはたき落とした。
周囲には崩れた瓦礫が散乱している。
その時だった。
「ユカリ先輩!」
聞き慣れた声。
ユカリが顔を上げる。
轟が全力で走ってくる。
いつも冷静な轟が。
珍しく息を切らしていた。
そしてユカリの前で足を止める。
何か言おうとして。
言葉が出ない。
何度も口を開いて閉じる。
そして。
ようやく。
「……無事で良かったです」
ユカリは気付いた。
轟の拳が震えている。
怒りでもない。
恐怖だ。
失うかもしれないと思った恐怖。
それをずっと抱えていた。
「……ごめんね」
ユカリが謝ると、轟は首を振る。
「違います」
真っ直ぐな目。
あの日、舞台で見た時と同じ目をしていた。
「謝らないでください」
「先輩は悪くない」
声が少し震えていた。
「俺たちが助けに来るのが遅かっただけです」
「轟くん……」
轟の思いを聞いて、ユカリの胸が熱くなる。
その時。
「ユカリ先輩!!」
瓦礫を飛び越えながら出久が駆けてくる。
その後ろから追いついてくるミリオと環の姿も見えた。
「怪我は!?体調は!?変なことされてませんか!?」
一気に質問が飛んでくる。
まるでいつものよう。
ユカリは思わず笑った。
「大丈夫」
「本当ですか!?」
「うん、本当」
出久はその場に座り込んだ。
「よかったぁ……」
心底安心した顔。
緊張の糸が切れたようだった。
ユカリは知っている。
出久はずっと自分を責めていた。
あの日。
あと少しで手が届いたから。
あと少しで助けられたから。
だから今。
誰より安心している。