第29章 救出
ユカリは一瞬何が起きたかわからなかった。
「……馬鹿が」
低い声。
怒っているような。
泣きそうなような。
聞いたことのない声だった。
「……何勝手に連れてかれてんだ」
ユカリの目が大きくなる。
爆豪は肩に顔を埋めている。
見せたくないのだろう。
今の表情を。
「探したんだぞ……」
掠れた声。
小さく漏れた本音。
その声は少しだけ震えていた。
「……ごめんね」
ユカリの胸がどうしようもなく締め付けられる。
どれだけ必死だったのか。
どれだけ心配していたのか。
その一言だけでわかってしまったから。
ユカリはそっと爆豪の服を握る。
「……来てくれてありがとう」
どれだけ危険だったか。
どれだけ無茶をしたか。
全部わかっている。
それでも。
来てくれた。
諦めずに探してくれた。
こうして手を伸ばしてくれた。
それが嬉しかった。
爆豪は何も言わなかった。
ただ黙ったまま。
その代わり。
ぎゅっ……と。
腕に込める力が強くなった。
思わず息が詰まるほどに。
ユカリは目を細める。
そしてそっと。
爆豪の背中に手を回した。
ほんの一瞬、爆豪の身体が固まる。
けれど次の瞬間には。
さらに強く抱き寄せられた。
離す気なんてないとでも言うように。
ユカリは苦笑する。
「苦しいよ」
小さく言うと。
「……我慢しろ」
掠れた声が返ってきた。
それだけだった。
それだけなのに。
どれほど大事にされてるのか。
痛いほど伝わってきた。
だからユカリは何も言わない。
ただ静かに。
その腕の中にいたのだった。