第29章 救出
ユカリと死柄木の間に、奇妙な静寂が流れる。
その時だった。
――ウゥゥゥゥン……
遠くからサイレンが聞こえる。
一台ではない。
何台も。
次々と。
夜の山に反響する音。
ユカリが顔を上げる。
死柄木も視線を向けた。
さらに。
空から聞こえる飛行音。
プロヒーローたちの移動手段だ。
到着は近い。
もう時間がない。
死柄木は耳元の通信機に手を当てる。
「全員聞け」
その声は冷静だった。
「撤退だ」
下の階で戦っていたヴィランたちへ命令が飛ぶ。
「これ以上やる意味はない」
短い言葉。
だが絶対の命令だった。
最上階で戦闘中の荼毘が笑う。
「了解」
3階ではトガが残念そうに手を振る。
「はーい。出久くんまたね?」
2階にいたコンプレスは深くお辞儀をした。
「では、これにて幕引き」
そして。
次の瞬間。
建物全体が震えた。
ゴゴゴゴゴ――――
嫌な音。
床が軋む。
壁がひび割れる。
出久は天井を見上げながら顔色を変えた。
「まずい!!」
ミリオも環も走り出す。
「崩れるぞ!!」
そして死柄木は屋上で静かに言った。
「―――じゃあな、ユカリ」
次の瞬間。
死柄木が足元へ手を置く。
崩壊。
能力が建物全体へ走る。
床。
壁。
柱。
研究施設そのものが連鎖的に砕け始めた。
轟音。
まるで巨大な地震。
屋上が大きく傾く。
「っ!?」
ユカリは咄嗟に踏ん張る。
だが間に合わない。
足場そのものが崩れた。
屋上が砕ける。
床が消える。
そして。
ユカリの身体が宙へ投げ出された。