第29章 救出
気付けば考えてしまう。
もし。
もし違う人生だったら。
もしあの日。
もしあの時。
そんなことを。
考えてしまう。
死柄木は鼻で笑う。
馬鹿らしい。
そんなものに意味はない。
今さら過去は変わらない。
積み重ねた罪も消えない。
それでも。
ユカリを見ていると。
ほんの一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
自分が誰かになれた未来を想像してしまう。
『……でも帰してくれないんだ?』
『まぁな』
『帰したら全部終わる』
逆だ。
帰さないと全部終わる。
これ以上ユカリを側に置くと。
自分がだめになる。
誰かを助けようとする目。
傷ついた相手に手を差し伸べる姿。
ヴィランである自分たちにさえ向けられる優しさ。
近くにいればいるほど。
自分の意志が揺らぐ。
壊したい世界なのに。
壊したいはずなのに。
ユカリはその世界の中に、ほんの少しだけ救いがあるように見せてしまう。
ユカリはヒーロー。
だから自分とは相容れない。
そのはずなのに。
どうしても。
最後まで殺したいとは思えなかった。
それが何より腹立たしかった。
死柄木はゆっくりとユカリを見つめる。
「でもまあ」
そんな目で見られるのも――
「悪くなかった」
そう小さく笑う。
「…………」
ユカリは複雑な表情を浮かべている。
敵同士。
本来なら絶対に分かり合えない立場。
それでも。
死柄木はユカリを傷付けられず。
ユカリも死柄木を単純な悪として切り捨てられなくなっていた。
だから余計に厄介だった。
下では戦闘音が近付いてくる。
爆発音。
崩れる壁。
仲間たちの声。
あと少しで誰かがここへ辿り着く。
そのことを死柄木も分かっていた。
だから静かに空を見上げる。
大きな満月。
「……時間切れだな」
そう呟いた声は、どこか残念そうだった。