第29章 救出
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ユカリは急いで通路を駆け抜ける。
背後では爆発音が響いて。
階下からは戦闘音が聞こえてくる。
一番奥にある非常階段。
その扉を体で押し開ける。
重たい金属音が響いた。
息を切らしながら階段へ飛び込む。
下は敵だらけだ。
なら上しかない。
選択肢なんてなかった。
踊り場を曲がり、上を目指す。
鉄の階段を駆け上がるたび、靴音が狭い空間に反響する。
息が苦しい。
それでも足は止まらない。
そして。
最上階のさらに上。
屋上へ続く鉄扉が見えた。
「……っ」
ユカリは勢いよく取っ手を掴んで開いた。
ギィィ――――
重い音。
夜風が吹き込む。
屋上。
月明かり。
雲ひとつない夜空。
大きな満月が浮かんでいた。
その光の中。
一人の男が立っている。
ユカリの足が止まった。
「……死柄木」
白い髪。
赤い瞳。
痩せた身体。
風に髪を揺らしながら、死柄木弔は静かにこちらを見ていた。
まるで最初から待っていたかのように。
ユカリは息を呑む。
下では激しい戦闘音が続いている。
だが。
この屋上だけは妙に静かだった。
満月の光が二人を照らす。
死柄木はしばらく何も言わなかった。
ただユカリを見る。
その視線には敵意も殺意もない。
むしろ。
どこか寂しそうですらあった。
やがて。
死柄木がゆっくり口を開く。
「お前、逃げてきたんだろ」
静かな声。
荼毘がいない。
何も知らないユカリの様子からして、意図せずここへ来たんだろう。
だが、死柄木はそれでも良かった。
空を見上げる。
巨大な満月。
赤い瞳が月光を映す。
そして小さく笑う。
「やっぱりお前は中心だな」
意味の分からない言葉。
死柄木は再び視線を戻した。
夜風が吹く。
屋上の静寂の中。
ユカリと死柄木は向かい合った。
下では、仲間たちが必死に戦っている。
だが今。
この満月の下で対峙しているのは――
ヒーローを目指す少女と、
ヴィラン連合のリーダーだけだった。