第29章 救出
「返してもらう、か」
その声は妙に落ち着いていた。
環が眉をひそめる。
コンプレスは続けた。
「一つだけ訂正しよう」
帽子のつばに手を添える。
「君たちは勘違いしている」
ミリオの目が細くなる。
「何が言いたい」
コンプレスは二人を真っ直ぐ見た。
「彼女は誰のものでもない」
静かな声だった。
戦闘の最中とは思えないほど。
「君たちのものでも」
「我々のものでもない」
環が僅かに目を見開く。
コンプレスは続ける。
「まず本人の意思を聞いてあげるべきだと思わないかい?」
その言葉に。
環の脳裏にユカリの顔が浮かぶ。
優しい笑顔。
優しいだけじゃない。
良いも悪いも。
ちゃんと自分で考えて動く人。
だからこそ。
環は静かに答えた。
「聞くよ」
コンプレスが目を細める。
「…………」
「でも」
環は一歩前へ出た。
珍しく迷いのない声だった。
「帰りたいって言うと思う」
ミリオも笑った。
「俺もそう思う」
コンプレスは数秒二人を見つめた。
やがて肩をすくめる。
「かもしれないね」
その返答はどこか寂しげだった。
だが次の瞬間、帽子が翻る。
「とはいえ」
「仕事は仕事だ」
その言葉にミリオと環は構える。
「通してもらう」
「通せないね」
再び激突して、轟音が通路に響き渡る。