第29章 救出
荼毘は廊下へ顎を向ける。
「来い」
「……どこに行くの」
「来れば分かる」
短い返答。
だがその目は妙に鋭かった。
階下から聞こえる戦闘音を聞いているのだろう。
「早くしろ」
荼毘に促され、ユカリは部屋を出る。
警戒は解かないまま。
逃げる機会を探しながら荼毘の隣を歩く。
角を曲がる。
また曲がる。
長い廊下を歩く。
やがて。
中央階段の前を通り過ぎようとした。
その時だった。
下の階から駆け上がってきた人影が視界に入る。
白と赤の髪。
見慣れた姿。
轟焦凍。
「―――!」
ユカリの瞳が大きく見開かれる。
轟も足を止めた。
一瞬。
本当に一瞬だった。
だがその姿を見間違えるはずがない。
「ユカリ先輩!!」
轟が叫ぶ。
ユカリの心臓が跳ねた。
来てくれた。
本当に。
その瞬間。
荼毘が舌打ちした。
「チッ」
青い炎が揺らめく。
轟は即座にインカムへ手を伸ばした。
「見つけた!!」
息を切らしながら叫ぶ。
「ユカリ先輩を発見した!!」
インカムの向こうで全員が反応する。
『本当に!?』
ミリオの声。
『どこだ!?』
爆豪の怒鳴り声。
轟は視線を逸らさないまま答える。
「最上階中央通路!」
「荼毘と一緒だ!!」
その言葉を聞いた瞬間。
各階で戦っていた四人の空気が変わる。
見つかった。
ようやく。
ようやくユカリが。
爆豪はトガを爆破で追い込みながら叫ぶ。
『絶対離すな!!!』
ミリオも力強く返事をする。
『今行く!!』
出久や環の表情も、一気に強いものに変わる。
通路では轟と荼毘が睨み合う。
荼毘の隣に立つユカリ。
轟は安堵しそうになる気持ちを必死に押さえる。
無事だった。
怪我はある。
疲れてもいる。
それでも生きている。
それだけで胸がいっぱいになりそうだった。
だが今は違う。
まだ終わっていない。