第28章 焦燥
環も立ち上がる。
椅子が小さく音を立てた。
幼稚園からずっと一緒だった。
誰よりも長く隣にいた。
そんなユカリを諦められるはずがない。
「俺も行く」
小さな声。
だが決意だけは揺らがなかった。
出久は胸の奥が熱くなるのを感じた。
轟も同じだった。
そして爆豪は小さく頷く。
ユカリを助けたい。
その気持ちは皆同じだ。
「ただ、一人だけ連れて行かない」
ミリオの突然の言葉。
その瞬間、空気が少し変わる。
爆豪が眉をひそめた。
「誰だ」
「波動さん」
その名前に、全員が納得したように黙る。
ミリオは苦笑する。
「きっと知ったら怒ると思うけどね」
「当たり前だろ」
爆豪が即答する。
想像できる。
ねじれはユカリを慕っている。
ずっと一緒にいる友達だ。
同性の仲は、誰も代わりが出来ない。
自分だけ仲間外れにされたら間違いなく文句を言うだろう。
それでも。
「危険すぎる」
ミリオの表情が真剣になる。
「相手はヴィラン連合だ」
誰も反論できない。
「俺はユカリを助けたい。でも同時に、これ以上仲間を危険に晒したくない」
その言葉には重みがあった。
ヒーローを目指す人間らしい考え方だった。
環も小さく頷く。
「……波動さんは」
掠れた声が響く。
「優しいから」
皆が環を見る。
環は視線を落としたまま続けた。
「ユカリが攫われたって聞いて……ずっと部屋で泣いてる。今もそう」
その光景が容易に想像できる。
ねじれは感情を隠すのが苦手だ。
大切な人が傷付けば、自分のことのように苦しむ。