第28章 焦燥
「だから余計に」
環の拳が震える。
「危険な目に遭わせたくない」
静かな声だった。
だが誰よりも強い意思が込められていた。
出久は息を呑む。
環も辛いはずだ。
ユカリとは長い付き合いで。
誰よりも心配している。
それでも仲間を守ることを優先している。
その時。
「じゃあ、お前はいいのかよ」
爆豪が低く言った。
環が顔を上げる。
「お前だって危険だろうが」
空気が張り詰める。
環は少しだけ目を伏せた。
そして。
「……危険でも行く」
迷いなく答えた。
「ユカリだから」
その一言だった。
爆豪も出久も轟も黙る。
環は普段、自分の気持ちを多く語らない。
だからこそ。
その短い言葉の重さが分かった。
「ユカリだから、助けに行く」
それだけだった。
それだけで十分だった。
ミリオが静かに笑う。
「俺も同じだよ」
そして二人は顔を見合わせる。
幼馴染として。
仲間として。
大切な友人を取り戻すために。
もう覚悟は決まっていた。
これで五人。
まだ足りないかもしれない。
それでも。
何もしないよりはいい。
ユカリを助けるためなら。
どこへだって行く。
部屋の空気はまだ重い。
不安も消えていない。
だが。
初めてそこに前を向く力が生まれていた。
ユカリを取り戻す。
そのための第一歩が、静かに動き始めていた。