第28章 焦燥
重い沈黙が流れる。
相澤は責められる覚悟をしていた。
当然だと思っていた。
大切な娘が連れ去られたのだ。
怒鳴られてもいい。
殴られても文句は言えない。
だが。
聞こえてきたのは、予想していた言葉ではなかった。
「先生」
ユカリの父親が静かに口を開いた。
相澤が顔を上げる。
父親は苦しそうな表情をしていた。
顔色も悪い。
無理もない。
それでもその目には怒りではなく、別の感情があった。
「先生が謝ることじゃありません」
その言葉に相澤は言葉を失った。
「ですが」
思わず口を開く。
「ユカリさんを守れなかったのは――」
「違います」
今度は母親だった。
震える声だった。
泣いている。
怖いはずだ。
不安でたまらないはずだ。
それでも。
「先生たちが頑張ってくださったことくらい、分かっています」
相澤は何も言えなかった。
母親は膝の上で手を握り締めていた。
「ユカリ、よく先生のお話をしてくれるんです」
少しだけ笑う。
涙混じりの笑顔だった。
「厳しいけど、ちゃんと見てくれてる先生だって」
相澤の胸が僅かに痛んだ。
「一年生の時」
父親が続ける。
「自分の個性で悩んでいた時も」
「ヒーローを目指すことが正しいのか迷った時も」
「相澤先生がいたから頑張れた」
「大好きな先生だってユカリは言ってました」
相澤は視線を落とした。
そんな話をしていたのか。
知らなかった。
ユカリはあまりそういうことを本人には言わない。
だから余計に胸の奥が熱くなる。
「私たちは」
父親がゆっくり言う。
「雄英を信頼しています」
相澤が顔を上げる。
父親も母親も真っ直ぐこちらを見ていた。
「もちろん心配です」
「怖いです」
母親の声が震える。
「今すぐにでも迎えに行きたいです」
涙が零れる。