第28章 焦燥
***
緊急会議が終わった後も、雄英高校は慌ただしく対応に追われていた。
警察との連携。
各報道対応。
保護者説明。
その中で、最も重い役目がまだ残っていた。
―――職員室。
現3年A組担任が立ち上がる。
「私も同行します」
そう言った担任に、相澤は首を横に振った。
「いや」
短い返答。
「ですが、ユカリは今は私の生徒です」
「関係ない」
冷たい言い方だった。
だが、その表情は普段よりずっと険しい。
職員室の空気が重くなる。
担任は食い下がった。
「責任は私にもあります」
「だが、今回の警護体制を推したのは俺だ」
相澤は静かに言う。
「林間合宿の警備強化を学校側に提案したのも俺」
「それで十分だと判断したのも俺」
「だから行くのは俺だ」
その声に感情はほとんど乗っていない。
だが、だからこそ重かった。
担任は言葉を失う。
相澤は一度目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、ユカリの顔だった。
1年の頃から見てきた教え子。
誰よりも人を助けたがる少女。
何度も見てきた優しい笑顔。
信頼している先生だと選んでくれたあの日。
それを守れなかった。
「……相澤先生」
「お前は学校に残れ」
相澤は立ち上がる。
「ユカリが帰ってきた時、生徒たちをまとめるのは担任のお前の仕事だ」
そう言って捕縛布を肩に掛けた。
「俺は――」
一瞬だけ言葉が途切れる。
「保護者に頭を下げてくる」
職員室は静まり返った。
誰も引き留められない。
それは教師としての責任だった。
そして何より、
かつて自分が受け持った大切な教え子を守れなかった男の責任だった。
そして相澤は一人、重い足取りで職員室を出て行った。