第26章 林間合宿
『ユカリ!』
突然、インカムから誰かの焦った声が流れてくる。
『西側で一人はぐれた!』
『誰!?』
『障子だ!』
ユカリが振り返る。
障子くん。
確かに索敵能力は高いが、この状況での単独行動は危険すぎる。
『向かう!』
即答して、ユカリは方向を変える。
森の奥へ。
さらに奥へ。
だが。
そこで環の声が入る。
『ユカリ』
短い声。
『どうしたの?』
『位置を送ってくれ』
『今、西側』
一瞬の沈黙。
環が何かを考えている。
『……近い』
『え?』
『嫌な予感がする』
ユカリも同じだった。
近付くほど、違和感が濃くなる。
森は異様なほど静かだった。
さっきまで聞こえていた戦闘音すら遠い。
気付けば周囲に誰もいない。
ユカリは立ち止まる。
呼吸を整える。
暗い。
静かだ。
そしておかしい。
障子がいるはずの場所に。
誰もいない。
その瞬間、背後から拍手が聞こえた。
パン。
パン。
パン。
ゆっくり。
わざとらしく。
ユカリが振り返る。
木々の間。
闇の中から人影が現れる。
一人。
二人。
三人。
そして四人。
見覚えのない顔もいる。
だが、中央に立つ男だけはすぐにわかった。
首を掻く癖。
不気味な笑み。
乾いた目。
―――死柄木弔。
「こんばんは」
その声は妙に穏やかだった。
ユカリの全身の神経が警鐘を鳴らす。
だが死柄木は動かない。
襲ってもこない。
ただ立っている。
まるで待っていたように。
「やっと会えた」
死柄木はそう言った。
ユカリは周囲を見る。
退路。
封鎖されている。
通信。
微妙にノイズが入る。
誘導された。
その事実をユカリは理解した。
最初から全部、自分をここへ連れてくるためだった。
遠く離れた戦場では。
教師たちも。
ミリオも。
ねじれも。
環も。
まだそれに気付いていない。
気付いた時にはすでに遅いように、敵は計算していた。
そして死柄木は、ユカリを見つめながら静かに言う。
「話をしよう」
その言葉こそが。
今夜の襲撃の本当の目的だった。