第1章 序章
異変を感じ始めたのは、小学校の高学年に上がる頃だった。
私たちが住む『まこち町』で、以前にもまして不穏な空気を感じるようになった。
他の町から来たと思われる他校生や怪しい流れ者。
どこかの組織の人間みたいなギャングの人達など。
ガラの悪いよそ者が、以前より一層、街で好き勝手をするようになり、街の人たちをより見かけなくなった。
「……」
殺風景なシャッター街を背後に、零はガラス越しに自身の姿を見つめる。
胸元には造花のブローチが飾られており、卒業証書を持っている。
普段着はジーンズにパーカーと、お洒落っ気のない格好だが、この時だけは、シックなスカートを履いていた。
(やっぱり、似合わないな……)
小6にしては無駄にあるタッパ。
キリッとした男顔。
ボーイッシュなショートヘア。
髪型は単に好みだから。でも体格はどうみても、同い年の男子よりも男っぽい。
(まあ、もう慣れたけどね……)
ヒュゥ〜
通り過ぎる風の音がより一層、街の静けさ募らせる。
冬の寒さが僅かに残る初春の風を肌で感じる。
「零」
!
振り返ると、スクールバックを背負っている兄が私を手招きした。
「あんまりし離れるなよ」
私は兄の隣について、ふと見上げる。
中学3年生を迎える兄は、以前にも増して威厳ができた気がする。
体格は同年代に比べて160cmと小柄にも関わらず、誰もそんな兄をいじることはない。
見た目という飾り物の強さではなく、その体の奥底にある芯の強さが、確かに兄の中に存在していた。
それはまるで鉄筋のようで、どんなに叩いて倒そうとしても、一筋縄では決していかない。
物心ついた頃から一緒だった私も、何となく理解していた。
元々兄は、人とあまり連まないため、怖がられても、親しくなりたいと近づいてくる人はいなかった。
一兄だけを除いて。
「お〜い!つつじブラザ〜ズッ!」
後ろから走ってきて、私の肩を組んでくる。
一兄の片方の手首には、お肉屋さんで買った大量のコロッケが入った袋を下げている。
美味しそうな匂いがツンと鼻を刺激して、学校帰りの食欲が掻き立てられた。