第1章 序章
そこからの展開は早かった。
親戚の誰もが反対して、「二人一緒に施設へ入るのはダメだ」「別々になっても、それぞれが安全な家で暮らすべきだ」と。
考え直せと言うが、兄は断固として譲らなかった。
私を大人から守るようにして間に入り、私はただその背中を見上げていた。
「俺は妹と住めれば、それでいいんです。俺達はいなくなって、アンタらの懐には、多少なりとも遺族金が入るし、妙な義理を尽くす必要も無くなる。互いに万々歳じゃないですか」
そう言って引き離す兄に、もう誰も反論できなかった。
私は"イゾクキン"という言葉が何なのかでさえ、さっぱり分からなかった。
兄は6歳にして、とても頭が良かった。
話し言葉も雰囲気も大人びていて、普通とは違っていた。
私たち兄弟を離れ離れにしようと大人達が企んでいることに、とっくに気付いていた。
親戚の中に、私たち兄弟をあたたかく迎え入れる余裕がある人はいないことも知っていた。
もしかしたら兄は、生前の両親から、何か聞かされていたのかも知れない。
それを知る術は、今となってはもう無い……
私たち兄弟は、2人で生きる道を選んだ。
いや、決して1人ではなかった。
施設を点々としながらも、その中で良い人達にも出会えた。
「楼ッ!零ッ!早く美味しい夕食食べようぜェ!今日はことはが作っためッッちゃ旨カレーだぞー!!」
「梅。いつもその大声並みにハードル上げるのはやめて。誰でも作れるただのカレーだから」
「すごいなァ!ただのカレーをそんなにおいしくできるなんて、やっぱことはのカレーは愛情たっぷりなんだなァ」
「少なくとも、アンタだけに対する愛情ではないから」
いつも明るい一兄に、ことは姉は呆れ顔を浮かべながらも、それはまるで家族みたいな風景。
新しい兄と姉みたいな人達が、温かい笑顔で私たち兄弟を迎え入れてくれた。
皮肉なものだ。
血縁者には除け者扱いされても、血の繋がらない人達と、まるで本当の家族のように過ごすとは。
笑い声に美味しいご飯の匂い。
血よりも強い絆で結ばれた温かい場所。
そうだ。自分たちがいた場所は偽物で、ここが本当の家で、ようやく帰って来れたんだ。
幼い頃は本気でそう思っていた。
兄達と一緒に平和な時を過ごしていた。
あの頃までは、本当に楽しかった……