第3章 〈過去編〉奇妙な先輩
兄がいつも口を酸っぱくして私に何度も言った言葉だ。
(梅干しだけに)
ここ数年、まこち町全体もさらに治安が悪くなっており、その中心にある風鈴の風紀も乱れている。
暴力を是とするいわゆる過激派とも言える輩が、周辺の街をも練り歩いて、潰し回っていると。
全て兄と一兄から聞いた話で、誰も好き好んで近づかない暗黙の場所だと……
(……確か、1限目、体育だったか)
私は急いで自室に戻り、制服から体育着に着替えた。
シワになってしまうけど、制服はスクールバッグに畳んでしまう。
生徒手帳はジャージのポケットにしまっておく。
遅刻する場合、遅刻理由を記入した欄をすぐ先生に見せて、サインをもらう必要があるからだ。
(皆勤賞を逃すのは残念だけど、仕方ない)
弁当箱が入った保冷バッグを大切に抱える。
ちゃんと手紙も入っていることを確認して、いつもの通学路とは逆方向に向けて走った。
(初めての反抗期かもな……)
兄の言いつけは破ることになるが、それでも、どうしても渡しに行きたかった。
正確には、前から一度、風鈴に行ってみたかったのだ。
兄や一兄が男同士でつるみ、街のために毎日戦っている場所が一体どんなところか、この目で見たかった。
暴力や喧嘩を好まない兄が、暴力を是とした場所へ自ら進んだ場所。
約束を破ってでも、私は知りたかった。
どんな些細なことでも、兄の力になれるのなら。
今の兄を少しでも理解できる材料になるなら、行く価値は十分にある。いや、行くべきなんだ。
ヒーローの無事を祈ってばかりで、他人よがりのか弱いヒロインなんて、死んでもごめんだった。
あの時は……
そんな気持ちが交錯しながら、目的地に近付くにつれて、人気が減っていき、街の雰囲気がさらに変わっていく。
目の前にした途端に、理解した。
(ここが、風鈴高校……)
落書きで汚れた校門。
その奥には、ゴミで荒れまくった校庭が広がっている。
学校というより、まさしく不良の溜まり場。廃墟に近い有様だった。
(兄ちゃんや一兄は、ここに3ヶ月もずっと……)
「あァ?見かけねえ奴じゃん」
「!」
校門近くで呆然としていて、後ろの気配に気付けなかった。
反射的に振り返ると、そこには、上級生と思わしき4人の風鈴生が立っていた。
少なくとも、良い人達には見えなかった。
