第3章 〈過去編〉奇妙な先輩
(あ、弁当忘れてる……)
登校前の身支度を済ませた私は、水筒にお茶を入れるために、冷蔵庫を開けた。
そして唖然とした。
兄に渡したはずの弁当箱が、置かれていたのだ。
昨夜、ちゃんと伝えたはずだったのに……
『あ、ああ。貰っとくわ』
相変わらず口数が少ない兄だったが、嫌な顔はしなかった。
中学高校となれば、家族からのおせっかいは煩わしく感じる年頃でもあるから、正直断られると思った。
でも、妹からの厚意を素直に受け取ってくれる。
そこは昔から変わらないのが分かり、少しホッとした。
『どうしたんだ急に?何かイベントでもあるのか?』
『……今度、公演を控えているから、皆に差し入れしたくてね。練習がてら、作ってみようかなって』
咄嗟の思いつきで言い並べたが、兄は特に違和感も持たず、「そうか。それは楽しそうだな」と言った。
でも、それだけで終わらなかった。
『……学校は楽しいか?』
!
あの兄ちゃんから話を振られた。
驚きと同時に、またとないチャンスを掴むように、私は饒舌に返す。
『う、うん。楽しいよ。演劇部でも大役を任されているし、部活終わりのたまに合気道もして、運動も好きだからね…!』
『……そうか。演劇、だけならいいんだがな』
?
兄は最後に呟いてから、「おやすみ」と一言断ってから、自室へ戻っていった。
私は妙な会話の終わりに違和感を持ちながら、兄とは反対方向に進み、私も自室に戻った。
そして今朝方、木製の弁当箱に色鮮やかなおかずを丁寧に詰めて、白米にも梅干しを飾った。
湿度で食材が痛みやすい梅雨の時期には、旬の梅干しはまさに絶好の保存食だ。
そして兄が起床して、共用スペースである台所へ顔を出したタイミングで、即座に渡した。
なのに、冷蔵庫に置き忘れるとは……
(きっと、家を出る直前まで、保冷しておこうとしたんだな……)
リビングの時計を見上げたら、時間は7時50分頃だった。
これから急いでダッシュで追いかければ、渡せるかもしれない。
(それか教室に入っちゃったとしても、渡すくらいなら中に入れ_)
『風鈴には絶対に来るな』
「!」
あ。そうだった……