第2章 〈過去編〉奇妙な演者
聖良は悪びれもなく、話を続ける。
「だーって零。演技以外の人間関係はてんで無頓着というか?やっぱりせっかくの青春だからね。あだ名があった方が、全然楽しいでしょ!」
「……青春ねぇ」
零は夕焼け雲を見上げた。
部活終わりの放課後の帰り道。
でも通るのは決まって、人通りが多く目立つような大通りで、裏路地や人気の少ない暗い小道は、絶対に通ってはいけない。
『え?どうして?』
中学2年生に上がって間もなく、つまり一兄達が風鈴高校に入学した頃に、兄ちゃんに言われた。
『……俺達が入学した風鈴高校は、地元でも名の知れた不良が多い場所だ。そういう奴らが、よく屯っているから危険なんだ』
その時、何故か兄の頬には、大層な湿布が貼られていた。
新しい1年の制服なのに、何故かボロボロようにも見えた。
明らかに喧嘩をした後の様子で、「大丈夫?」「何があったの?」「学校で嫌なことでもあったの?」と聞いた。
しかし兄は決まって「大丈夫だ。お前が気にすることじゃない」と、詳しくは教えてくれなかった。
兄はとても優しくて、自分から理由も無しに誰かを傷付けるような人じゃなかった。
むしろ話し合いを好み、暴力を好む性格でもなかった。
そんな兄が施設に帰ってくる度に、傷を増やしていって、さらには心なしか、笑顔も減ったように思えた。
それが心配で、帰ってくる度に何度も聞いたけど、何も教えてくれない。
代わりに、ある言葉を何度も繰り返し私に言った。
『間違っても、風鈴には絶対に顔を出すな』と。
『?』
最初はその言葉の意味が、よく分からなかった。
恥ずかしいから授業参観には来るなとかなら分かるけど、別にそんな行事は無いし。
別に行こうとも思ってなかったけど、何故そこまで神経質になってまで忠告するのか。
そこが妙に引っかかった。
(自分が望んで入った高校なのに、どうしてそんな辛そうな顔をするの…?)
私は心配で、ある日聞いてみた。
『……兄ちゃんは、風鈴高校に入学して、楽しくないの?』
『……』
その時、兄ちゃんの顔が少し引き攣ったのを、私は見逃さなかった。
そしてすぐに元の顔に戻って、「まさか、そんなわけでないだろ」と笑顔で私に言った。
その笑顔は私が何度も見たことがある、嘘つきの顔だった……