第2章 〈過去編〉奇妙な演者
公演は20分ほどの短い劇だった。
起承転結がはっきりしており、新入生でも分かりやすいシンプルなストーリーだった。
全くの素人の私でも、不思議と頭の中にスルリと入ったのは覚えている。
(とはいえ、あの時は周りの空気に圧倒されて、ストーリー自体は全く覚えていないんだけどね……)
無事に通し稽古が終わり、片付けと最後のミーティングが終わり、私は下駄箱で自分の靴を出した。
時間はもう18時を過ぎており、サッカー部や野球部など野外部活動も、ぼちぼち切り上げる時間だ。
校舎から外に出て、空を見上げる。
もうじき梅雨明けなのか、いつもより爽やかで悪くない夕暮れ雲が浮かんでいる。
もうすぐ夏もやってくる。
スイカだったり花火だったり、夏休みの宿題だったり、皆でまた……
零の笑顔がどんどん消えていく。
(……兄ちゃん達。今頃、大丈夫かな…)
零の心の中にはいつも、2人の遠い背中が映っていた。
どんなに努力しても、どんなになりたい自分を描くようにして演技に没頭しても、届くことのない大きな背中。
少なくとも、2年前までは、放課後の帰り道では決まって隣を歩いていたから、眺めることはなかった。
隣り合わせになって、一緒にいられた。なのに……
グッ
零は悔しさの表れで、スクールバッグの取手部分を握った。
この強く握る力でさえ、女の私は男の人に敵うわけがない。
せめて、自分の身を守れるくらい、兄ちゃん達に認めてもらえるくらいには強くなろうとした。
でも、そもそもきっと、今の兄ちゃん達の瞳には、私の姿は……
考えれば考えるほど虚しくなっていき、感情として自分の瞳から溢れ落ちそうになる。
でもあの時の卒業式の日、自身の心に誓った時から、私は泣かない。
でも、泣いたら、また私を見てくれるのかな?
街を守ることよりも、昔みたいに一緒にいたいと言ったら、何て……
零は女の子みたいに泣くよりも、強くあり続けること強く願う。
まさしく今任されている男形の役を演じるようにして、凛々しく立ち振る舞い、本当の自分は内に隠し、自分を偽ってきた。
風鈴統一という理想のために頑張る梅宮達を困らせないように、ずっと我慢していた。
『私を見て欲しい』という、本当の願いを、気持ちを、ぶつける勇気が持てなかった。