第2章 〈過去編〉奇妙な演者
「!」
シィーン
いつの間にか体育館内の空気が変わっていることに気付いた。
皆んな皆、今話している部長さんに注目して、もう誰も笑ったり、微妙な空気を感じている様子もない。
校長先生の長ったらしい話の時よりも、よほど集中している。
私はその変化を不思議に思いながら見渡していると、ある事を思い浮かべた。
(え、“さっきの茶番”って、もしかして……)
部長さんはニヤッと笑い、手元から何かを取り出す仕草をした。
「?」
しかしその手には何か握られている様子もなく、宙に飛ばすようにして、大胆に手を挙げる。
するとその手から弧を描くように照明が入る。
「!」
『Thank you for coming♪』
舞台の赤い暖簾の隅に、綺麗な文字の造形が浮かび上がる。
この体験入部会のためだけに用意されたのであれば、随分と手の込んだ演出だ。
(しかも私みたいに、まだ入部するかも分からないのに……)
観客の何人かがささやかな歓声と拍手を送る。
部長さんはそれらを手で受け取るような大袈裟な仕草をしてから、マイクを持ち直す。
「え〜まずは、僕たちについて知ってもらうには、観てもらう方が早いと思う!百聞は何とかって言うしな!」
「!」
あれ…!?
よく見るといつの間にか、隣に並んで立っていたはずの他の部員が、すでにいなくなっていた。
他の観客も、ようやく気付いたらしく、ボソボソと呟いている。
舞台上にいるのは、部長さんただ1人。他の人達は横脇の舞台裏に移動したのだろうけど……
(え?いつからいなくなって……)
あ。もしかして。
さっきの照明に気を取られている間に、皆んなの視線が舞台から外れている時に、物音立てずに退散したの?
でも、全ッ然。気付かなかった。
観客の注意を逸らしながら、魔法みたいにその場から消えるような演出なんて。
まるでマジックのようで……
私の心は、すでに新しい世界へと魅了されていた。