第2章 〈過去編〉奇妙な演者
『へ?』
零の瞳には、しっかり聖良の姿が浮かび上がる。
『演劇って、自分を偽って、違う自分として演技するってことじゃないの?』
すると聖良は顎あたりに人差し指を添える。
『うーん、確かに普通はそう思うかもしれないね』
そしてその指を零の胸の辺りに指し示すようにしてズバッと言う。
『でも、“偽る”ってことはつまり、“本当の自分”が己の内にしっかりあるって証拠でしょ?』
『!』
この時、のちに部長になる聖良から聞かされた言葉は、零にとって忘れられない言葉となった。
『結局誰でも、今までの自分のキャラじゃないことを思い切ってやってみたり、誰かの助言や教えで、今まで見たことない世界に踏み込んでみたり、そう繰り返して、本当の自分の好きなことに気付いていくんだよ。自分の世界を広げていく感じだね!結局誰もが、時に演者になるんだよ』
聖良の瞳には嘘偽りのない純粋な光が宿っていた。
その場で踊り出しそうなくらい朗らかで軽やかに、まるで風に乗って空を舞う羽毛のような自由さを内に秘めているようだ。
本当に心の底から楽しそうで、そうやって自信をもって言えるのは、今まで培ってきた経験からの現れたにも見えた。
零にとって聖良は、まさに、新たな自分を教えてくれた道標の一つとなるのだ。
『つまり演劇って、新しい自分を知ることができる素敵な部活なの。もし、つつじさんが、今の自分に自信が持てなかったり、違う自分を探してみたいとか、迷ったりしているなら、きっと演劇部、合ってると思うよ?』
『……』
零は目を逸らして、少し考える。
あまりの急な展開に、戸惑っていること自覚しているため、時間が必要になる。
演劇なんてやったことがない。
経験者だからこそ、「大丈夫だよ」って言うのは常套句だし、結局赤っ恥をかいて黒歴史になるのがオチじゃないのか?
(でも、せっかく声かけてくれたなら……)
この時の零の気持ちには、ぼっちの自分に好意で話しかけてくれたことに対する恩義も混じっていた。
そこで渋々、彼女の誘いで、部活見学へ馳せ参じることになったのだった……