第2章 〈過去編〉奇妙な演者
舞台は、薄気味悪い暗闇の中。
森の奥深くで、夜行性の動物達が共鳴し合う中、2人の影が対比していた。
「なぜェッ!?何故なのですか兄様!どうして、私を置いて行かれるのですか?」
派手に着飾ったドレスに似合わない悲哀な表情を浮かべ、兄を見上げる。
地面の泥水が煌びやかなドレスに滲んでいく。
「……俺達はもう、あの頃には戻れない。幼い頃に育った街も、大切な友達も、全て守るためには、俺が行くしかない」
兄はそう言って突き放すも、女は縋り付くようにして、必死に訴える。
「兄様は、言ったじゃないですかッ?!どんなことがあっても、わたくしのそばにいると。わたくしにとっての家族は、もう、兄様しかいないのに……」
女の喚き声に釣られることなく、兄は静かに制する。
「ああ。だからこそ、俺はどうしても行くんだ。この世でたった1人の家族のために……いや、たとえ血が繋がらない他人だったとしても、俺はお前に出会っていれば、どんなことがあろうと守っていたさ」
言葉の一つ一つに、妹に対する愛と葛藤を込めて、物語はクライマックスへと進んでいく。
「お前は強い。恐れることはない。俺はどんな場所にいようとも、お前のことを忘れるわけがない」
「兄さんッ!!」
兄は舞台から一段降りて、天井を見上げた。
差し込んでくる光の先には、これから襲ってくるであろう敵国の死角達の影が映っていた。
腰に刺してある西洋剣を覚悟の大きさを示すように、大きく振りかざす。
「さあ来るがいいッ!愚者共ッ!俺の首を取る覚悟がある奴から、前へ出ろ!愚か者の相手は、愚か者で十分だ!」
暗転。
「ハイッ!OK!」
明転。
監督係の部員の一言で、体育館内の緊張が一気に逸れた。
主役、脇役、そして裏方のメンバー達の声がザワザワと聞こえてくる。
1時間の通し稽古だったため、集中力の糸が切れて、皆んなホッとしつつ疲れているのだ。
しかしその中でも、主役の1人である兄役を務めた“彼女”は、相変わらず落ち着いた様子を崩さない。
他の部員と雑談することなく、体育館の隅に置いていたペットボトルを手に取り、水を飲んでいた。
「いや〜。見事な演技っぷりだったよ。つつじさん」
「!」
零は振り返り、飲み口から口を離す。