第17章 渋谷事変
「よくわかんねぇけど、俺の肉体は特別だからな。こいつの魂は、俺の肉体に勝てなかった」
孫は一瞬にしておばあさんの近くに移動し、殴り飛ばした。
数珠と赤い液体が散らばる。
私の身体は完全に硬直し、震えていた。
――殺される。
私は、父親かもしれない人に恐怖していた。
だがすぐに頭を振り、震えを逃がす。
恐怖が完全になくなったわけではない。
それでも、何もせずに憂太に会えなくなるより、足掻いて足掻いて……。
孫の周りで円を描くように走り出す。
距離は詰めない。
走りながら影を伸ばし、孫の動きを封じることだけを考える。
「ねぇ……もう孫じゃないんだよね?誰?禪院……伏黒甚爾?私の――父親?」
孫は高く飛び、私の影を躱す。
そして着地すると、首を傾げた。
「誰だ?あー、えっと……津美紀?だっけか……」
「津美紀ちゃんじゃない。一色千鶴って知ってる?」
津美紀ちゃんの名前が出てくるということは、この男は伏黒甚爾で間違いないだろう。
伏黒甚爾は頭に指を当て、考える仕草をしている。
だが答えは……「誰だっけ?」だった。
――私を作っておいて、"誰だっけ?"だって?
胸を張って、憂太に"頑張ったよ"って言いたい。
だから……躱される影を何度も何度も伸ばした。
足掻いて足掻いて、足掻いた。