第17章 渋谷事変
おばあさんを抱えた孫に向かって、猪野さんは術式を発動する。
「来訪瑞獣1番――獬豸」
鋭利に尖った円柱は躱されたがすぐに軌道を変え、頭を庇った孫の腕を抉った。
――瑞獣って……中国の?
獬豸は正義の象徴。
悪人を角で突く神獣。
どうやら猪野さんの術式は"降霊術"のようだ。
猪野さんはすぐに次の降霊を行う。
「2番――霊亀」
足に水を纏い、滑りながら孫に近づき殴りかかる。
だが全て躱されていた。
足をかけひっくり返し、かかと落としをする。
防がれて、猪野さんは一度距離を取った。
今はまだ、呪力を使い果たすには早すぎる。
影を伸ばし、孫の影に巻き付けた。
帳の術者だ、そう簡単には倒せないかもしれない。
だけど、時間もかけられない。
孫から視線を外し、おばあさんを見る。
何かを唱えている。
いや、拝んでいるようだ。
両手を合わせて、ずっと何かを呟いていた。
孫から影を離し、おばあさんに影を伸ばす。
「猪野さん!そっちのおばあさん!気になります!」
「ああ、俺もそう思う」
影はおばあさんに届かずに戻ってきた。
孫に殴られて、術式を維持出来なくなったのだ。
術式を発動しながら、身体を強化することができない。
少しずつ熱を発し始める頬に、眉を顰めながら立ち上がる。
口の中に鉄の味が広がった。