第13章 平行世界
「依頼人の話によれば、子供の様子が可笑しかったのはハッキリとした日数は覚えてないらしいが一ヶ月弱だったらしい。けれど、未だに可笑しいと訴えている依頼人もいる。勘違いかもしれないし、入れ替わったままか心境の変化の可能性だってある。話だけでは確実な日数は割り出せない」
「それだと自由に戻ってくる方法があるのかも判りかねるな」
「自由に戻ってこれるのかもしれないけれど、アリスは無理矢理飛ばされているからその方法を知るわけがない」
「向こうで動いてたとしても難しいか」
「向こうの世界線で同じ異能者に接触したとして、必ず此方側に帰れるとは限らない。更に別の世界に行ってしまう可能性だってある。それは避けねばならない」
太宰は何時になく真剣だ。
「手前らが取り逃がした男をそう簡単に見付けられるだろうか」
「見つけさせるさ。私もそう長くは保たない」
「俺も人のこと云えねえが手前も相当だな」
太宰の言葉に中也は呆れた顔をしてみせた。
「お宅ンとこの名探偵は如何した」
「こういうときに限って社長と出張中なのだよ」
太宰が溜め息を吐く。
「手前はアリスが絡むと何時もの頭のキレが何処かに行ってポンコツに成り下がるからな」
「何それ。私は何時でも冷静だとも」
「彼奴の異能に頼るプランを実行しようとしている時点で気付けよ」
「……。」
確かに冷静ではないのかもしれない。
然し、それを認めることはしない太宰だった。
「取り敢えず明日だろ?指定した時間に送ってやるから手前は帰れ」
「云われなくてもそうするよ」
グラスに注いでいたワインを一気に飲み干すと、太宰は立ち上がり、アリスが眠る寝室へと向かった。
音を立てずに扉を開けて、そこで眠るアリスの顔を見る。
勿論、寝顔も瓜二つだ。
でも矢張り、違うのだ。
「お休み…」
何方のアリスを思って出た言葉だろうか。
太宰は再び音を立てないように扉を閉めると中也の家を後にしたのだった。
扉が閉まったと同時にアリスがスゥ、と目を開ける。
「治兄が心配してるように、中也も心配してくれてるかな…」
勿論、返事はない。
アリスは小さく息を吐いて、再び目を閉じた。