第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
𓂃 side:伏黒恵 𓂃
三人の姿が食堂の出口へ消えていく。
最後に振り返ったが、また小さく手を振った。
俺は短く頷いて返すと、が安心したように表情を緩める。
それから野薔薇に呼ばれて、また前を向いた。
その背中が見えなくなるまで、俺は目を離せなかった。
「……いやあ」
五条先生がに手を振りながら、口を開いた。
「、変わったよねぇ。引き取った頃はさ、近づくだけで噛むし、目を離すとすぐ暗い所に逃げるし。お風呂も暴れて大変だったのに」
「……津美紀が、よく困ってましたよ」
当時のことを思い出して、少しだけ口元が緩んだ。
「最初は全然ベッドで寝なくて。クッションとかタオルとか、みんなの服を部屋の隅に集めて、自分だけの『巣』みたいに丸まって寝てましたからね」
「あー、あったねぇ。引っ張り出そうとすると威嚇されるから笑っちゃったよ」
「お風呂上がりも酷かったですね。津美紀がドライヤーをしようとすると、全力で逃げ回ってました」
で、逃げ回った挙句に……俺の背中にピタリと張り付いて、服の裾をぎゅっと掴むのだ。
そして、ドライヤーを持った津美紀に向かって、俺の後ろから『フーフーッ』と息を吐いて威嚇していた。
結局、俺が頭にタオルを被せてぽんぽんと拭いてやると、途端に大人しくなって……。
あんなに警戒心が強かったくせに、俺に髪を拭かれている時だけは、無防備にコクリコクリと船を漕いでいた。
気持ちよさそうに目を細めて、俺の手に頭をすり寄せてくることもあった。
そのたびに津美紀が「恵ばっかりズルい」と笑っていたのを覚えている。