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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


ゆっくり顔を上げると、はまた涙をこぼしていた。

なんで、お前が泣くんだよ。
泣きたいのはこっちだ。


すると、は胸元で左手の親指と人差し指をくっつけた。
小さな輪。

それから右手でも同じ輪を作って、ふたつをそっと重ねる。

小さな鎖みたいに繋がった指先が、俺の方へ向けられる。
トントン、と二回。


(この合図は……)


以前、食堂で姑獲鳥の話が出た時もやっていたもの。
津美紀も知らない。
五条先生だって知らない。

知っているのは、俺だけだ。



――『約束』。



そういう意味の、俺たちだけの合図。
食堂の時は、『無茶しないって約束して』という意味だった。
でも、今は。



『約束して。全部忘れて。今まで通りの関係を続けよう』



ふたつ繋がった、小さな指の鎖。
俺たちの関係を、もう一度そこに縛り直そうとしている。

それが、お前の望みなのか。

本当に。
それでいいって、思ってるのか。


ずっと家族のふりをしていた。
幼馴染の顔をして、隣にいた。
守るためだと言い訳して、触れない理由を探していた。


の頬に手を添え、親指で頬の涙を拭う。



「……」



ゆっくり顔を近づけて、の唇のすぐ手前で止まる。


ここで離れれば。
今なら、何もなかったことにできる。
今なら、まだ戻れる。


の瞳は揺れていたが、俺を突き放すことも、逃げることもしなかった。



悪い。





俺はもう、その鎖だけじゃ抑えがきかねぇんだ。
















「今日だけ……」

「その約束、破っていいか」





言えるのは、それだけだった。
それ以上言えば、全部壊してしまいそうだったから。


だから――。


言いかけたものごと、の唇を塞いだ。
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