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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


『ごめんね』



は顔を上げないまま、また文字を書き足す。



『忘れて』
『私も忘れるから。恵くんのためにも』



その二行だけが、紙の上でやけに冷たく見えた。


なんだよ。
忘れる?

何を……。

今のキスをか。
声を出してまで言った言葉をか。

それに、俺のためってなんだよ。

お前にとっては、忘れられるようなものだったのか。
こっちは、お前のことならどうでもいいことまで覚えてんだ。


俺はノートを持つの手を掴むと、の肩がびくりと震える。



「どういう意味だよ」



は唇を噛んだまま、俺を見ようとしない。
その態度が、余計に腹立たしかった。


責めたいわけじゃない。
傷つけたいわけでもない。

ただ、なかったことにされるのだけは、どうしても許せなかった。


俺は掴んでいた手首を強く引くと、の身体がよろけるようにこちらへ近づく。
胸元に抱えていたノートとペンが、ぱさりと音を立てて床に落ちた。


その身体をもう一度抱きしめて、の肩に額を押し当てる。


たぶんが忘れろって言っているのは、さっきのことだけだ。

分かってる。
それでも、俺にはそう聞こえなかった。

その言葉が、今までの全部に向けられているみたいで。


この十年、一緒に過ごしてきたこと。
全部、俺の中に残ってんだよ。

忘れたくない。
にも忘れてほしくない。

本当は、お前の中から一つでも俺を消してほしくない。
ずっと覚えていてほしい。


でも、そんなことを言って。
この関係まで壊れるのは嫌なんだ。


お前がそう言うなら、そういうことにしておけばいい。
それで、今までみたいに隣にいられるなら。



「……わかった。それでいい」

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