第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「もう完全に、恵のこと親鳥か何かだと思ってたよね。髪の毛がツンツンしてるからかな」
「……それは関係ないでしょ」
「そんなも、すっかり年頃のかわいい女の子だね」
「だいぶ、普通に暮らせるようにはなりましたね」
「そのうち彼氏とかできちゃったりして」
「……っ」
牛乳が変なところに入って、むせそうになる。
けれど、先生はそれを見逃さなかった。
「あれ、恵。どうかした?」
「いえ、別に」
先生は頬杖をついて、ニヤニヤと笑ってこっちを見ている。
この人のこういうところ、ほんとにめんどくさい。
「だってもう子どもじゃないでしょ。好きな人ができてもおかしくないし」
「……あいつは、そういうのまだ――」
言いかけて、止まった。
まだ、何だ。
まだ早い。
まだ知らなくていい。
まだ危ない。
そうやって、俺はいつまであいつを五歳のままにしておくつもりなんだろう。
「恵。いつまで家族ごっこしてるわけ?」
「何の話ですか」
「僕の前では、とぼけなくていいのに」
「とぼけてません」
「ふーん? じゃあ、聞くけど……が誰かにあの合図を教えてもいいの?」
さっきの仕草が頭に浮かぶ。
親指と人差し指で作った二つの輪を繋げて。
こっちへ向けて、二回。
十年の間に、いつの間にかできた俺たちの合図だ。
がまだ文字を書けなかった頃から、そういうものだけは少しずつ増えていった。