第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
『約束を破って、その声で誰かを呼んだら、お前のいちばん大切なものを食べてあげる』
それを話せば、私のいちばん大切なものが誰なのかも、明かしてしまうことになる。
恵くんがそれを知ってしまったら、きっと一人で無茶をする。
恵くんはそういう人だ。
だから、絶対に言えない。
すると、野薔薇ちゃんが首を傾げた。
「縛りってことは、その姑獲鳥を祓えばの声は戻るってことよね?」
その問いに、先生は「うーん、それがねぇ」と顎に手をやった。
「姑獲鳥は隠れるのがすっごく上手くてさ。祓いたくても、あの時以来一度も姿を見てないんだよね」
先生のその言葉に、恵くんの顔が険しくなる。
「……去年、が中学を卒業する直前、学校の近くで、姑獲鳥のものと思われる残穢が確認された。今も、姑獲鳥はを取り返そうとしてる可能性がある」
「十年も経ってるんでしょ? 普通、そこまで執着するものなの?」
野薔薇ちゃんがそう言うと、先生は軽く肩をすくめた。
「それだけ姑獲鳥にとって、は特別なんだろうね」
どこかの暗闇で、あれは息を潜めて私を探している。
また、私をあの腕で抱くために。
私を……あの巣へ連れ戻すために。
喉の奥の結び目が、きゅっと締まった気がした。
「まあ、心配しなくても大丈夫だよ」
先生は空気を変えるように、ポンッと手を叩いた。
「ここは高専の結界の中だし、僕や君たちもいる。それに、もあの頃とは違って姑獲鳥に一方的に攫われるほどヤワじゃない」
「だから安心して、青春を謳歌しなさいな!」
虎杖くんが「青春って先生が言うと胡散臭いな」と笑って、野薔薇ちゃんが「それは同感」と頷く。