第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
恵くんは私の前に置かれたりんごジュースを、少しだけこちらへ押し戻した。
泣いたあとで喉が渇くだろ、とでも言うみたいに。
その仕草が恵くんすぎて、また少し泣きそうになった。
虎杖くんが突然、ぴっと手を挙げた。
「先生、質問!」
「はい、悠仁くん!」
「その呪霊……うぶめ?って何? 有名なの?」
その瞬間、野薔薇ちゃんがぎょっとした顔をした。
「あんた、姑獲鳥も知らないの?」
「え、そんな常識?」
「怪談とか妖怪の話で聞くでしょ。赤ん坊を抱いた女の幽霊とか、子どもをさらう女の化け物とか。虎杖、オカ研だったんじゃないの?」
「いや、俺……ユーレイ部員だったし」
虎杖くんが気まずそうに言うと、恵くんが口を挟む。
「難産で死んだ女とか、子どもを産めなかった女の未練から生まれるって言われてる。地方によって話は違うけどな」
「へー……そういう系か」
五条先生はドリンクの氷を揺らしながら、空いている椅子に腰を下ろした。
「姑獲鳥は『母親になりたい』っていう執着から生まれた登録済みの特級仮想怨霊だよ。だから人間の赤ん坊を攫って、自分の巣で育てるんだ。……まあ、普通の人間の子は、呪いにあてられて数日も生きてられないんだけどね」
「え、でもは……」
虎杖くんが、ごくりと唾を飲み込んだ。
その呪いの巣で、私が五年間も生かされていたことがどれだけ異常なことか、虎杖くんはすぐにわかったのだろう。
私は自分の両手を見下ろした。
あれに乳を飲まされて育ったせいで、私の体には姑獲鳥由来の呪いが混ざっている。
私が、自分を普通の人間だと思えない理由だ。
「が声を出せないのも……まだ物心つく前に、縛りを結ばされたんだと思う。姑獲鳥にとって都合のいい形でね」
先生がそう言うと、虎杖くんたちは複雑そうな顔で頷いていた。
五条先生は、私の声に何らかの縛りがかけられていることには気づいている。
けれど、その本当の条件までは知らない。