第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
ある日。
暗い巣の中に、黒いサングラスをした白い髪の人が来た。
その人は、あれを傷つけようとしていた。
だから噛んだ。
差し伸べられた手に、思いきり歯を立てて。
けれど、歯は届かなかった。
その人の手と私の歯の間に、見えない何かが挟まっているみたいだった。
「へー……姑獲鳥(うぶめ)に育てられた子か」
そんなふうに笑って、私を抱き上げた。
その腕があまりにもあたたかくて。
怖くなった。
あれに抱かれる時は、いつも冷たかったから。
私はその腕の中で、必死にあれを探した。
けれど、あれはどこかへ消えていた。
私には、その人があれを奪ったように見えた。
(お母さんを返して)
あの時の私は、そう言いたかったのかもしれない。
でも、言葉を知らなかった。
そして何より、声を差し出してしまった私には、もう叫ぶこともできなかった。
その代わりに、私はただその人の服をぎゅっと掴むしかなかった。
「……ってわけで」
五条先生の声で、意識が食堂に戻ってくる。
「は僕が保護して、しばらく様子を見て。それから恵たちと暮らし始めたってわけ」
先生は何でもないことみたいに言ったが、虎杖くんも、野薔薇ちゃんも何も言わなかった。
そうだよね。
こんな話を聞いたら、困るに決まっている。
どう返せばいいのか、わからなくなるに決まっている。
呪いに育てられた子。
人の言葉を知らなかった子。
人間じゃないものを、母親だと思ってしがみついていた子。
そんなの、気持ち悪いと思われても仕方ない。
二人と目を合わせられなくて、私は下を向いた。
その隣で、恵くんが五条先生を睨む気配がした。
「なんで今、そういう話するんですか」
「隠したって、いつかはみんなの耳に入ることだよ」
「だからって」
「それに……」
五条先生は、私の頭にぽんと手を置いた。