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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


が、俺にキスをしている。

頭では分かっているのに、現実味がなかった。
そのことを本当の意味で理解したのは、の目から涙がこぼれたのが見えた時だった。


さっきまで、あれほど触れたいと思っていたのに。
いざ触れられたら、指一本動かせなかった。


少しして、唇がゆっくりと離れていく。
至近距離で、と視線が絡んだ。

の瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ落ちている。
俺のシャツを握る手は、強く握りすぎて白くなっていた。




「……やだ」



部屋の中に、掠れた小さな音が落ちる。


一瞬、幻聴かと思った。
けれど、それは確かに、目の前にいるの喉からこぼれたものだった。


初めて聞いた、の声。

何度も、頭の中で思い描いていた。
こいつが声を出せたら、どんな風に笑うんだろう。
どんな風に、俺の名前を呼ぶんだろうって。


でも、本当のの声は――。


俺が勝手に思い描いていたものよりも、ずっと綺麗で。
泣きたくなるくらい、透明な声。



「どこにも行かないで……恵くん」



どこにも行かないで。
その意味が、すぐには分からなかった。

なんでだよ。
なんでそうなる。


気づけば俺は、を強く引き寄せて抱きしめていた。
細い身体を俺の腕の中に閉じ込めるように。



「……行くわけねぇだろ」



は俺の胸元に顔を埋めたまま、じっとしている。
俺のシャツを握る指が震えていることに気づいて、その手に自分の手を重ねた。



「お前を置いて、どこにも行くわけない」



さらに腕に力を込めると、ふわりとの匂いがした。
シャンプーなのか、柔軟剤なのかはわからない。
いつも隣にいる時に微かに香る匂い。

同じ匂いのはずなのに、距離が近いだけでこんなに違うのか。
腕の中にある柔らかさも、身体の熱も。


(離したくねえ……――)


そう思った瞬間、腕の中での身体が小さく震えた。
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