第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「……なんで……」
。
どうして、ここに。
鍵は――。
そうだ。
シャワーから戻ってきた時、俺はドアを閉めただけ。
鍵をかけた記憶がない。
最悪だ。
こんな姿を見られた。
よりによって、に。
言い訳なんかできる状況じゃない。
けれど、何も言わないわけにもいかない。
「……っ、これは」
なんて説明すんだよ。
いや、そもそも説明なんてできるわけがない。
慌てて身なりを整えながらベッドを降りると、が一歩後ずさった。
また、逃げられる。
そう思ったら、考えるより先に手が伸びていた。
「待てって」
細い手首を掴むと、の身体がびくりと震えた。
駅前で見た時と同じ。
俺を避けるみたいに、の視線が激しく揺れている。
こんな俺を見て、気持ち悪いと思ってるんじゃないか。
引いてるんじゃないか。
最悪の想像ばかりが頭をよぎる。
「話、聞け」
そうは言ったが、何から説明する?
今してたことからか?
のこと考えてしてたって?
そうじゃねえだろ。
それに、に聞きたいこともたくさんある。
なんで、ここにいる?
どうして今日逃げた?
あいつに何言われた?
俺のこと、嫌いになったのか?
頭がぐちゃぐちゃすぎて、何から言えばいいか全然わかんねえ。
は手を振り解こうとしたり、俺の胸を押して離れようとする。
拒絶されたように思えて、つい強く名前を呼んでしまった。
「っ!」
の肩が小さく跳ねる。
その顔がひどく苦しそうで。
何かを堪えているみたいで。
何をそんなに怖がっているのか。
何を聞きたくないのか。
俺には分からない。
分からないまま、とりあえず何か言わなきゃと思って、口を開いた。
「俺は――」
その先を言う前に、が俺のシャツをぎゅっと掴んだ。
そのまま、さらに強く引かれる。
反動で、身体がわずかに前へ傾いた。
の顔が近づいたと思った時には、柔らかいものが俺の唇に触れていた。