第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
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シャワーから戻り、バタンと部屋のドアを乱暴に閉める。
今日はもう寝てしまおうとベッドに向かう足が、ふと止まった。
机の上のハンドタオルに何となく手を伸ばす。
たかがハンドタオルなのに、あの時、がこれを渡してきた指先まで思い出せてしまう。
自分でも呆れる。
のことならいくらでも思い出せる。
朝、寝癖を隠すみたいに髪を押さえながら、食堂に入ってくる顔。
ノートの端に小さな落書きをして、気づかれた瞬間に慌てて隠す顔。
任務帰り、疲れているくせに「大丈夫」と書いて見せる強がった顔。
俺が隣に座ると、少しだけ力を抜く横顔。
に声がなくても、何も問題ないと。
俺は誰よりものことを分かっている、そう自負してきた。
なのに……。
駅前で見たの顔だけは分からない。
(……あんな顔、すんなよ)
思い通りにならない苛立ち。
がいつか俺から離れていくかもしれない焦り。
触れたい。
抱き寄せたい。
俺だけを見てほしい。
そんな醜くて真っ黒な感情が、抑えきれない熱になって下腹部に溜まっていく。
(……最悪だ)
またベッドに倒れ込み、もう片方の手をスウェットの下へ滑り込む。
ひどく熱を持ったそこに触れると、背筋が粟立った。
「……はぁっ……くそ、……っ」
本当はこんな形で、を考えたくない。
それでも、頭の中では何度も身勝手に触れて、汚して、俺のものにしている。
最低だ。
ごめん、。
こんな俺を許せなんて言えない。
もうお前を家族としてなんて見れない。
俺は。
のことが……――。
「……っ、……好きだ、……っ」
自分の声が暗い部屋に落ちた、その瞬間。
どさっ、と何かが床に落ちる音がした。
反射的に身体を起こして、音のした方を見る。
床にはコンビニの袋が落ちて、中でペットボトルが転がる音がした。
その横に、見覚えのある俺のシャツがくしゃりと広がっている。
視線を上げると、ドアの近くに人影が立っていた。
顔に影がかかっていたが、立ち尽くすその気配で、誰なのか分かってしまう。
今一番会いたくなくて、会いたいやつ。