第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
家族なら。
ただの幼馴染なら。
こんなことで、いちいち期待なんかしないはずなのに。
だから、聞いたんだ。
俺の連絡先を教えなかった理由。
は真面目だから、勝手に人の連絡先を教えるやつじゃないことは知ってる。
でも、それ以上に……――。
言ってほしかった言葉があった。
『家族だから、わかるよ』
その文字が胸の奥に刺さったまま、まだ抜けない。
苛立ちと、どうしようもない情けなさで、ぎゅうっとシーツを握りしめた。
その時、遠慮のないノックの音が部屋に響いた。
「伏黒ー、いるー? 夕飯、行こうぜ!」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、虎杖の能天気な声だった。
今の俺が、一番聞きたくない種類の明るさだ。
「……行かねぇ」
シーツに顔を押し付けたまま、素っ気なく返す。
「えっ? マジで? 飯食わねーの?」
「いらねぇ。……風邪っぽいから、寝る」
本当は風邪なんて引いていない。
ただ、今は誰の顔も見たくなかった。
にも。
「マジか! 大丈夫かよ。俺が看病しようか?」
ガチャガチャとドアノブが鳴るが、鍵をかけているから開くことはない。
なんで虎杖に看病されなきゃいけないんだよ。
それに、今誰かに踏み込まれたら、まともに返せる気がしなかった。
「いい……。一人にしろ」
這い出るように絞り出した声に、虎杖は「……わかった。なんかあれば、すぐ言えよ」と少し心配そうに言って、パタパタと足音が遠ざかっていった。
再び、部屋に重い静寂が落ちる。
(……は今、何してんだろうな)
夕飯、ちゃんと食っただろうか。
今日の任務は大丈夫だったのか。
……いや、今日は五条先生も一緒だったはずだ。
あの人がいるなら、危険な目には遭っていないだろう。
頭では分かっているのに、考えるのをやめられない。
ふと、喉が異常に渇いていることに気づいた。
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して、一気に流し込む。
冷たい水が喉を通っていく。
それでも、胸の奥で燻る苛立ちはちっとも冷めなかった。
(……シャワー、浴びてくるか)
少しでも頭を冷やしたくて、俺はタオルを掴んで部屋を出た。