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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


きっと恵くんがりんごジュースを選んだのは、偶然じゃない。

私が嫌がる前に。
私が困る前に。
私が声を出したくなる前に。
いつも恵くんは気づいてしまう。


すると、向かい側で野薔薇ちゃんが箸を止めた。



「相変わらずすごいわね、あんたたち」



その隣の虎杖くんも、感心したような顔をしている。



「伏黒、通訳アプリの術式でもあるのか?」

「ねぇよ、そんな術式」

「俺、全然わかんなかったわ。だって、まだ何も書いてなかったじゃん」

「あのぐらい普通だろ。お前らだって、狗巻先輩が言ってることだいたいわかるじゃねえか」

「いやぁ、それでも、狗巻先輩はおにぎりの具はしゃべってるから……」

「それに……十年も一緒にいれば、嫌でもわかる」

「十年!? そんなに長く一緒にいるの、あんたたち」



野薔薇ちゃんが、驚いて声を上げた。


十年。
もう、そんなに経つんだ。

私が恵くんの家に初めて行ったとき、確か五歳だった。
その時の私は箸の持ち方も、靴の履き方も、布団で眠ることも。
全部、知らなかった。



「それ、もう家族だな」



家族……か。
虎杖くんの言葉は、間違っていない。
間違っていないから、少しだけ苦しかった。

恵くんは家族みたいな人。
ずっと、そう思おうとしてきた人。



「ところで、なんでは伏黒と一緒に暮らし始めたの?」



その質問に、私はペンをぎゅっと握った。

なんて答えればいいんだろう。


五歳。

白い髪。
黒いサングラス。
濡れた羽の匂い。
地面に散らばった、知らない誰かの骨。

もう、十年も経つのに一瞬でそれは蘇ってくる。
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