第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
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お昼を少し過ぎた高専の食堂で、私はいつも通りみんなと食事をとっていた。
食器の音。
椅子を引く音。
虎杖くんが、向かいの席でご飯をかきこんでいる音。
その全部を聞きながら、私は目の前の紙パックを見つめていた。
牛乳。
今日の定食には、飲み物がひとつ付いていた。
牛乳、麦茶、りんごジュース。
私は食堂で渡された牛乳を、断るタイミングを逃したまま席まで持ってきてしまった。
どうやら、それを見つめていた時間が長かったらしい。
私の前に置かれていた紙パックが、すっと横にずらされる。
「お前はこっち」
恵くんは、そう言ってりんごジュースを渡してきた。
私は慌てて首を横に振る。
牛乳が嫌いなわけじゃない。
飲めないわけでもない。
ただ、舌の上に残る甘さが、ほんの少しだけ昔のことを思い出させるだけで……。
そう書こうとして、膝の上のノートに手を伸ばした。
けれど、ノートを開くより先に恵くんがため息をつく。
「嫌いじゃないって言いたいんだろ。でも、無理すんな」
そうだけど。
それじゃ……恵くんの分がなくなってしまう。
そう伝えようとして、私は左手の親指と人差し指で小さな丸を作る。
それから、恵くんが渡してきたりんごジュースを指して、彼の方へそっと押し返した。
簡単な手話と、私たちだけの癖が混ざった曖昧な合図。
虎杖くんと野薔薇ちゃんは、私たちのそんなやりとりを不思議そうに見ている。
「俺はお前の牛乳飲むから」
そう言って、私の牛乳を飲み始めてしまった。