第2章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を欲しがる II**
「……言うね。恵のくせに」
五条先生も、自分の皿に残っていただし巻きをひとつつまみ上げた。
そして、俺が置いただし巻きの真横に、何食わぬ顔で置いた。
の空だった皿に、二つの黄色い塊が並ぶ。
の好きなものを置いて。
こっちを見てほしくて。
引き寄せようとして。
それはまるで、俺たちがに押し付けようとしている重い感情そのものに見えた。
俺たちが黙って睨み合っていると、が湯呑みを持って戻ってきた。
「お待たせしました……あれ?」
湯呑みを置こうとしたの手が止まる。
「だし巻き……増えてる……?」
すぐには何かを感じ取ったみたいに、俺と五条先生を交互に見た。
「あの……二人とも、どうしたんですか?」
「なんでもない」「なんでもないよー」
俺と五条先生の声が、ほとんど同時に重なる。
はきょとんとした顔のまま、皿の上のだし巻きを見つめていた。
増えただし巻きの理由も。
そこに混ざった感情も。
何も知らないまま。
「僕と恵からだよ」
「えっ」
「ね、恵」
「……」
五条先生が、わざとらしく俺に話を振る。
「食えよ。好きだろ」
「……あ、ありがとう」
は少し困ったように笑って、両手を合わせた。
二つ並んだだし巻きを、美味しそうに頬張る。
そんなふうに、何も知らずに受け取ってしまうから。
俺たちはきっと、余計にどうしようもなくなる。
五条先生がに落とした呪い。
俺がに告白した恋。
名前だけなら、まるで違うものに見える。
でも、根っこにあるものは、きっと同じだ。
好きだとか。
守りたいとか。
そんな綺麗な言葉だけじゃ、片づけられないもの。
欲しくて。
手放したくなくて。
誰かに取られるくらいなら、傷つけてでも引き寄せたくなるもの。
その黒い欲は、とっくに俺たちの中で育っていたんだろう。
だって、俺たちはもう――。
彼女を欲しがってしまっているんだから。
𓂃 クロユリは君を欲しがる 𓂃
── fin.