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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**


それでも、もうそこには伏黒くんがいて。
先生と私だけの特別な世界が、徐々に変わり始めている。


伏黒くんは何も言わなかったけど、いつもきゅっと結ばれている口元がわずかに緩んだのが見えた。


笑ったわけじゃない。
私の言葉を聞いて、ほっとしたような。
ずっと待っていたものを、やっと少しだけ受け取れたような。

そんな顔に見えた。


伏黒くんのこんな顔、初めて見た。
こんなふうに私の一言で表情を変える伏黒くんを、もう少し見ていたくなる。


伏黒くんが私の手首を離した。
その手が腕を伝って上がってきて、私の頬にかかった髪を耳にかける。



「……、好きだ」



近づいてくる伏黒くんを見ているうちに、瞼が自然と下りていく。


本当は私も、伏黒くんとキスしたかったのかもしれない。

それって――。




そう思った時にはもう、伏黒くんの唇が重なっていた。
腕の中に抱えていた本が、するりと抜け落ちる。

ぱさっと、廊下に乾いた音が響いた。


それを拾う余裕なんてなかった。


一度離れた唇がまた重なる。
わずかに顔を傾けられて、さっきよりも深く。

ただ触れるだけだった最初とは違って、少し強引に。

何度も角度を変えながら、隙間を埋めるように押し当てられる。



「ん……っ」



重なった唇の端から、息が漏れた。

頬に触れていた伏黒くんの手が、後ろ髪へ回る。
指先が髪の間に滑り込んで、私を求めるみたいに後頭部を引き寄せられた。





「……」



名前を呼ばれて、薄く目を開ける。

先生とは違う、深い緑色の瞳。
その目を見ていると、今度は逸らしたくないと思った。



「……伏黒くん」



呼び返した途端、伏黒くんが私の手を取った。



「こっち」



その一言に促されるまま、私は伏黒くんの部屋へ入った。


扉が閉まる寸前、廊下に落ちたままの本が視界の端に映る。
半分だけ開いたページが、扉の動きで起きたわずかな風に揺れた。

ぱらり、と一枚だけ捲れる。


その音を最後に、廊下の景色が細い線みたいに閉じていった。
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