第7章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない**
「……おい」
「わ、わかんない!」
「それじゃ答えになってねぇだろ」
「だって……!」
そんなこと言われても、本当にわからないんだもん。
伏黒くんとのキスも。
先生とのキスも。
思い出すと、身体がむずむずして落ち着かなくなる。
だから、この前ひとりであんなことまでしてしまったんだから。
「わからないなら、確かめてみるか」
「……え?」
伏黒くんに手首を掴まれ、引き寄せられる。
抱えていた本が、二人の胸の間に挟まった。
「ふ、伏黒くん……?」
「もう一回したら、わかるかもしれないだろ」
「もう一回って……」
聞かなくても、その意味はわかった。
私は掴まれた手を引いて、横に首を振った。
「……だめ。こういうことは、先生が……」
口にした途端、自分でも引っかかった。
どうして私は、ここで先生の言葉を出しているんだろう。
先生がだめって言ったから。
じゃあ――私は?
「……それ、あの人が決めることじゃねぇだろ」
「……え?」
「俺は、五条先生に聞いてるんじゃない」
「……」
「に聞いてる。俺とキスできないのが、あの人にだめって言われたからってだけなら……俺は納得できない」
何も言い返せなかった。
今ここで伏黒くんを拒む理由を探した時。
最初に出てきたのは、私の気持ちじゃなかった。
先生の言葉だった。
それって、なんだろう。
じゃあ、私自身はどうしたいんだろう。
伏黒くんが、まっすぐ私を見ている。
答えを急かすこともなく。
ただ、私がどうするのかを待っていた。
まだ、自分がどうしたいのかはわからない。
でも。
あの日からずっと、ひとつだけ自分でも説明できないことがある。
「……ずっと、変なの」
「……」
「あの日から……先生のこと考えてるはずなのに、気づいたら伏黒くんのことまで考えてるの」
先生が好き。
ずっと、先生だけを見てきた。
私の中には先生しかいなくて。
他の誰かが入り込むなんて、考えたこともなかった。
『その場所に、他のやつ入れないでよ』
あの夜、先生にそう言われたのに。
伏黒くんのことを考えてしまうたびに、いけないことをしているような気がした。